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過眠の診断・治療

「過眠」とは、「日常生活上、起きていなければいけないときに、自覚的に強い眠気を感じるか、他人から見て眠そうにしており、日常生活に支障がでている」状態を言います。「過眠」を起こす原因は、主に以下の4つがあります。

  1. 睡眠不足(睡眠の「量」的問題)
  2. 眠りの質を悪くするような体の病気や就寝環境(睡眠の「質」的問題)
    例:睡眠時無呼吸症候群、周期性四肢運動障害など
    例:夜間就寝時の熱帯夜、騒音など
  3. 不規則な生活(睡眠の「タイミング」):概日リズム障害
  4. 起きている状態を維持する脳機能の障害(器質的問題)
    =過眠症(ナルコレプシーなど)

1. 睡眠不足(睡眠の「量」的問題) 
 必要とする食事量に個人差があるのと同じように、必要とする睡眠時間にも個人差はありますが、2015年に全米睡眠財団が調査・報告した研究によると、日中のパフォーマンスが高く、健康度が高い睡眠時間は、

労働世代(26~64歳):7~9時間
就学世代(14~17歳):8~10時間
就学児童(6~13歳):9~11時間

と報告されています(Sleep Health 1(1),40-43,2015)。

 実際、成人に5時間睡眠を1週間続けさせ、日々のパフォーマンスと客観的な眠気を評価した結果、5時間睡眠を7日間続けることで、ナルコレプシーなどの過眠症とほぼ同等の眠気が生じることが報告されています(SLEEP 20:267-277,1997)。にも関わらず、睡眠時間を4−6時間に減らして3日目以降は、自覚的な眠気の強さは変わらないため(SLEEP 26:117-126,2003)、睡眠不足でパフォーマンスが落ちていても、それが「睡眠不足によるもの」と自覚できない状況に陥ってしまいます。また、睡眠時間6時間程度は、アルコール血中濃度が0.03%相当(道路交通法の「酒気帯び運転」に匹敵)の注意力低下をもたらすことも報告されています(Nature 388:235,1997)。さらに睡眠不足(6時間未満)を続けることで、将来的に高血圧や糖尿病、高脂血症といった生活習慣病を発症するリスクが上昇し、その結果、心筋梗塞や脳梗塞などを発症するリスクが1.4倍以上に跳ね上がることが報告されています(Arch Intern Med 163:205-209, 2003)。また、受験勉強などで、つい睡眠時間を削りがちな中~高校生(12~18歳)では、6時間未満の睡眠時間を続けることで、7.5~8.5時間の睡眠をとっていた人にくらべて、将来「うつ」を発症するリスクが2倍以上になることも東大の研究グループによって報告されています(SLEEP 39(8):1555-1562, 2016)(参照:朝日新聞の記事)。

 慢性的に積み重なった睡眠不足は、正式には「睡眠負債」と言われているように、借金と同じようなものなので、十分な睡眠時間を確保することで返済しきらない限り、解消しません。どのくらい、「睡眠負債」という眠りの借金を貯めたかによりますが、ある研究によると、毎日8時間以上の睡眠を1ヶ月続けてようやく眠気が解消したという報告もあります。

 治療は、できる限り睡眠時間を確保できるような生活習慣の改善のアドバイスを行います。寝不足でパフォーマンスが落ち、そのため、残業や遅くまで勉強しているためにベッドに入る時間が遅れてしまう、早く寝ようと思ってもなかなか寝付けなくなったと言う悪循環に陥ってる場合、一時的に、薬物療法を併用することもあります。

 

2.  睡眠の「質」的問題
 眠りの質を悪くする病気の代表例として、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」とむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群:RLS)に合併しやすい「周期性四肢運動」があります。また、不整脈や、喘息による呼吸苦や、アトピー性皮膚炎などによるかゆみ、眠っているときの歯ぎしりなども、眠りの質を悪くする原因になることがあります。眠りの質を悪くする体の病気が隠れていないかどうかを確認するためには、PSG(polysomnography)検査が必要になります。

治療は、眠りの質を悪くしている体の病気の治療を第一に行いますが、補助的に一時的に睡眠薬等を用いることもあります。

 

3.  睡眠の「タイミング」の問題
 人の睡眠・覚醒は体内時計によってコントロールされ、一定のリズムをもって、睡眠・覚醒を繰り返します。不規則な生活や夜型生活を続けた結果、本来、眠るべき時間に脳と体が起きている状態になり、本来、起きていなければならない時間帯(仕事や勉強)に脳と体が眠っている状態になってしまい、日中の眠気や体調不良の原因になるのが「概日リズム障害」です。

治療は、社会生活を行う上で望ましい時間に寝起きできるよう、生活習慣の改善のアドバイスに加え、体内時計を調整する薬などを用いることもあります。

 

4.  睡眠の器質的問題=過眠症
 「脳」の機能の一つに安定して起きている状態を維持する機能があります。この機能に障害が起きてしまい、十分な睡眠時間(日々最低でも6時間以上)を確保しているにも関わらず、上司と対面で打合せ中やテストの問題を解いている最中など、普通寝落ちしないような場面でも居眠りをしてしまうほどの強い眠気が生じてしまうのが「過眠症」です。過眠症は「脳」の病気のため、客観的な指標で評価する精密検査を行って、確定診断をします。ただ自覚的に「眠い」だけでは、過眠症の診断はできません。また、休日や夜に好きなことをしているときは寝落ちすることがないのならば、「過眠症」の可能性は低くなります。

ナルコレプシー:典型的なナルコレプシーの場合、日中の強い眠気に加え、金縛りや入眠時幻覚(寝入り際の夢見)、情動脱力発作など、特徴的な体の症状を伴います。軽症のナルコレプシーの場合、これらの体の症状を認めないことがあります。確定診断のためには、最低2週間以上の規則正しく6時間以上の睡眠を確保した上で、PSG検査に加え、MSLT検査という昼寝の検査をして、客観的に日中の眠気の強さの評価とナルコレプシーに特徴的な脳波所見の確認が必須です。

特発性過眠症:ナルコレプシーに認められる特徴的な体の症状も特徴的な脳波所見も認めないにも関わらず、ナルコレプシー同等の日中の眠気を生じる過眠症です。診断のためには、今までの睡眠パターンや過去の睡眠時間の確認に加え、ナルコレプシーの診断の検査と同じく、PSG検査とMSLT検査を行い、眠気の強さを評価する必要があります。

治療は、「ナルコレプシー」や「特発性過眠症」は、「眠気の出やすい体質」になっているため、十分な睡眠時間を確保しても耐えがたい眠気が生じるてしまうため、眠気を押さえる薬を最小限の量で適切な時間に服用することになります。

クライネ・レヴィン症候群(反復性過眠症):病的な強い眠気が2日〜5週間続く時期が年に1回以上、反復して生じる過眠症。非常に希な過眠症で、眠気以外に特徴的な精神症状を伴います。慢性的な寝不足が続いたあとや、心理的な原因で、似たような状態になることもあります。

・月経関連過眠症:女性ホルモン(黄体ホルモン)に眠気を強める作用があるため、女性の38%が月経に関連して眠気の変化を自覚し、そのうち93%は月経中・月経前後に「眠気の増大」を認めると報告されています。 

その他:服薬・嗜好品の影響で日中の眠気が強まることがあります。

 

【院長の「過眠症」に関する業績】

論文(共著含む)
・Nakamura M, Inoue Y, Matsuoka H: Tractographic imaging of posttraumatic hypersomnia. Sleep Medicine 9:98-100,2007

※頭部外傷で脳に微細な構造異常が生じた結果、「過眠」症状を呈した症例を報告。Sleep Medicineの表紙に、現在でもカバーイメージとして載っています。

・中村真樹、井上雄一、松岡博夫:トラクトグラフィによる頭部外傷後過眠症の画像所見. 睡眠医療 2(4):494-495, 2008
・Nakamura M, Kanbayashi T, Sugiura T, Inoue Y : Relationship between clinical characteristics of narcolepsy and CSF orexin-A levels, J Sleep Res 20(1): 45-49, 2011

・Nakamura M, Nishida S, Hayashida K, Ueki Y, Dauvilliers Y, Inoue Y: Differences in brain morphological findings between narcolepsy with and without cataplexy. PLos One 2013;8(11):e81059
※情動脱力発作を伴うナルコレプシーで、扁桃体といわれる情動に関わる脳の部位にわずかな構造異常がある可能性を報告した論文。この論文により、Narcolepsy Network 29th Annual Conference, Researcher of the year award 2014 (USA)(全米ナルコレプシーネットワーク2014年ベスト研究者賞)を受賞し、Who's Who in the World 33rd Edition, 2016に選出されました。
NN2014_award WhosWho2016

・Takei Y, Komada Y, Namba K, Sasai T, Nakamura M, Sugiura T, Hayashida K, Inoue Y.  Differences in findings of nocturnal polysomnography and multiple sleep latency test between narcolepsy and idiopathic hypersomnia. Clin Neurophysiol. 2012, 123(1):137-41
・Sakuta K, Nakamura M, Komada Y, Yamada S, Kawana F, Kanbayashi T, Inoue Y. Possible mechanism of secondary narcolepsy with a long sleep time following surgery for craniopharingioma. Inten Med 2012; 51(4):413-7
・Ueki Y, Hayashida K, Komada Y, Nakamura M, Kobayashi M, Iimori M, Inoue Y. Factors associated with duration before receiving definitive diagnosis of narcolepsy among Japanese patients affected with the disorder. Int J Behav Med 2013 Dec 3, Published online

学会発表(共演含む)・学会講演
・中村真樹,井上雄一,松岡洋夫:トラクトグラフィによる頭部外傷後過眠症の画像所見,第3回関東睡眠懇話会,東京(2008.2)

・中村真樹、神林崇、井上雄一:特発性過眠症とナルコレプシーにおけるオレキシンとHLA-DR2、第33回日本睡眠学会、郡山(2008.6)
・中村真樹、井上雄一:MR-DTI/Tractographyを用いたナルコレプシーにおける脳微細構造異常の予備的検討、第4回関東睡眠懇話会、東京(2009.1)
・中村真樹、神林崇、井上雄一:ナルコレプシーの臨床症状と髄液オレキシン濃度の関係、第31回日本生物学的精神医学会、京都(2009.4)
・中村真樹、大和田理代、松浦雅人、井上雄一:拡散テンソル画像とVBMによるナルコレプシーの大脳白質異常所見、第34回日本睡眠学会、大阪(2009.10)
・作田慶輔、中村真樹、山田正三、川名ふさ江、井上雄一:頭蓋咽頭腫の術後に発症したナルコレプシー症例、第34回日本睡眠学会、大阪(2009.10)
・武井洋一郎、笹井妙子、岡靖哲、駒田陽子、中村真樹、井上雄一:ナルコレプシー患者における反復睡眠潜時検査(MSLT)所見の特徴、第34回日本睡眠学会、大阪(2009.10)
・Nakamura M, Kanbayashi T, Inoue Y : Narcolepsy symptoms and CSF orexin-A levels, 3rd Asian Narcolepsy Forum, Osaka (2009.10)
・Nakamura M, Sakuta K, Inoue Y: Brain morphometric change in narcolepsy -Diffusion Tensor Imaging and Voxel-based morphometry(VBM) study-, Turkish-Japanese Sleep Forum, Izmir(2010.5)
・中村真樹、作田慶輔、林田健一、井上雄一:特発性過眠症における大脳微細構造異常所見、第35回日本睡眠学会、名古屋(2010.7)
・植木洋一郎、林田健一、中村真樹、渡邊芽里、小林美奈、井上雄一:ナルコレプシー患者の受診行動に関する実態調査、第35回日本睡眠学会、名古屋(2010.7)
・中村真樹、作田慶輔、西田慎吾、横山恵子、松浦雅人、井上雄一:ナルコレプシーと特発性過眠症に見られる脳微細構造異常の差異、第40回日本臨床神経生理学会、神戸(2010.11)
・中村真樹:過眠~なぜ眠いのか?眠気の原因とその対策~、第6回産業職域睡眠セミナー、東京(2011.2)
・中村真樹、西田慎吾、林田健一、井上雄一:ナルコレプシーに認められるREM関連症状に関わる微細脳構造異常、第6回関東睡眠懇話会、東京(2011.2)
・Nakamura M, Nishida S, Ueki Y, Hayashida K, Inoue Y. The brain microstractural abnormalities in narcolepsy those cause daytime sleepiness and cataplexy. World Sleep 2011, Kyoto (2011.10.17)
・Nakamura M, Inoue Y. The neuroimaging study on narcolepsy -The brain morphological difference between narcolepsy with cataplexy and narcolepsy without cataplexy-. Sleep Research Academy in Kyoto 2011, Kyoto (2011.10.17)
・Takei Y, Nakamura M, Inoue Y et al. : Differences in findings of nocturnal polysomnography and multiple sleep latency test between narcolepsy and idiopathic hypersomnia. World Sleep 2011, Kyoto (2011.10.17)
・中村真樹、井上雄一:シンポジウム「過眠症の病態研究のシンポ」‐過眠症の画像研究‐、第37回日本睡眠学会、東京(2012.6.30)
・中村真樹、井上雄一:情動脱力発作を伴うナルコレプシーの身体合併症リスク、第39回日本睡眠学会、徳島(2014.7.2-4)
・碓氷章、松井健太郎、西田慎吾、伊藤永喜、栁原万里子、中村真樹、井上雄一:若年男性が睡眠不足に陥るとMSLTナルコレプシー基準を満たしやすい、第39回日本睡眠学会、徳島(2014.7.2-4)
・渡邉悠児、鈴木圭輔、宮本雅之、宮本智之、松井健太郎、西田慎吾、林田健一、碓氷章、井上雄一、植木洋一郎、村田桃代、中村真樹、沼尾文香、渡邉由佳、平田幸一:ナルコレプシーと特発性過眠症における一次性頭痛合併に関する調査、第39回日本睡眠学会、徳島(2014.7.2-4)
・Nakamura M, Inoue Y: Differences in Brain Morphological Findings between Narcolepsy with and without Cataplexy -The neuroimaging study on Narcolepsy-, Narcolepsy Network’s 19th Annual Conference, Denver (2014.10.18)
・中村真樹、伊東若子、今西彩、神林崇、井上雄一:髄液オレキシンとアディポネクチン・レプチンの関連、第40回日本睡眠学会、宇都宮(2015.7.2-3)

日本学術振興会科学研究費助成事業
トラクトグラフィによる過眠症における覚醒維持機能障害の病態解明(研究課題番号:21791161)、若手研究(B)、精神神経科学、2009-2010年度

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